憧れのサーリプッタさんに近づくための観察瞑想:スマナサーラ長老から学んだ、一瞬一瞬の生を輝いて生きるための秘訣(石井正則さんインタビュー )

 お笑いコンビ「アリtoキリギリス」としてデビューし、現在は俳優、ナレーター、タレントとしてもマルチに活躍する石井正則さん。スマナサーラ長老の本との出会いをきっかけに、歩く瞑想を中心としたヴィパッサナー瞑想にも取り組まれ、音声メデイアvoicy(*1)などを通じて、多くの人に瞑想や心の在り方についてのお話をされています。仏教や瞑想は石井さんにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

取材=編集部
構成=中田亜希
撮影=きいろろさとる

ヴィパッサナー瞑想との出会い

 仏教のきっかけは手塚治虫の『ブッダ』

 ―石井さんはサンガのツイッターを時々リツイートしたり、いいね!してくださっています。「有名な俳優の石井さんがどうしてサンガをリツイート?」と思ったのが、今回の取材のきっかけでした。voicyでは仏教や瞑想のお話もされていますが、石井さんはなぜ仏教や瞑想に関心を持つようになったのでしょうか?

 興味を持ったきっかけは、手塚治虫さんの『ブッダ』ですね。確か高校生のときに読みました。高校を卒業してこの業界に飛び込むまで3年くらいフリーターをしていた期間があるのですが、その時期には禅の本を好んでよく読んでいました。禅の歴代のお坊さん、慧能(えのう)がどうこうとか、ああいった人たちのエピソードを読むのが好きだったんです。

 禅のお坊さんのエピソードって、面白いのが多いじゃないですか。同じ禅のお坊さんでも、人によってこんなに性格が違うのねと、そういうのを読むのが好きで。この世界に入ってからは、仏教本を読む機会も少なくなっていたんですけど、それでも鈴木大拙さんの本などは読んでいました。

スマナサーラ長老との出会い

 そして10年くらい前ですかね、スマナサーラさんの本に出会って、また仏教の本を読み始めるようになりました。最初に読んだのは確かヴィパッサナー瞑想の本だったと思います。

 スマナサーラさんの本はおそらく20冊以上読んでいます。voicyでしている仏教系の話のほとんどは、スマナサーラさんからの受け売りです(笑)。テーラワーダ仏教に関する知識のほとんどは、スマナサーラさんの本で得たと言ってもいいと思いますね。日暮里の講演会にも行ったことがあります。

 最近は電子書籍で読みます。手軽に読めていいですよね。『怒らないこと』(サンガ)と『怒らないこと2』(サンガ)に関しては、相当いろんな人に紹介しました。まずLINEで『怒らないこと』のURLを送る。そして、ぴったりの金額のAmazonギフトカードを送って「この本を買いなさい」って(笑)。そうやってたくさんの友達に読んでもらいました。

仏教は論理的でわかりやすい

 ―スマナサーラ長老の本を読んで、どのような印象を持たれましたか?

 若い頃に禅の本を読んでいたということもあって、ぼくにとってはわかりやすかったです。でも人によっては、わからない、難しいという言い方をする人もいるんですよね。エモーショナルなものを求めがちな人にはわかりにくいのではないかというのが個人的な印象です。

 テーラワーダ仏教やヴィパッサナー瞑想って理屈っぽいじゃないですか。論理立った考え方と言ったらいいのですかね。「精神的なことを、論理立てて考えたらこうなりますよね。だから、まずそこをちゃんと見ましょう」というような感じで。

 自分としては「その通りですね」という事柄が多いんですけど、「仏教はスピリチュアルなもので、エモーショナルで、ファンタジーである」という先入観がある人にとっては、戸惑いがあるのではないかと思います。その戸惑いが排除されれば、すっと入っていけるのだと思いますね。

怒っている人と酔っ払いは似ている

 ―『怒らないこと』に、「人は自分が正しいと思っているから怒るのだ」という話が出てきますが、それを「なるほど」と思える人もいれば、「自分が正しくて何が悪いんだ」と思う人もいるようです。

 「自分が正しいなんてぜんぜん思ってない!そんなつもりで怒ってるんじゃないんだ!」って怒っている人、いますよね(笑)。それって酔っ払っている人と同じですよね。泥酔しているのに、「俺ぜんぜん酔ってないよ!」って言う人いるじゃないですか。あれに近い状態ですよね。

 程度の差こそあれ、誰しもが実際の自分と認識している自分に「ずれ」があるまま生きていますけど、「ずれ幅」の大きい人のほうが、仏教を理解しづらいのではないかという印象があります。スマナサーラさんの本を読んで、自分としてはなるべくその「ずれ」を小さくしていきたいと思っています。

かつては怒りやすかった

 ―テレビを見ていると、石井さんはあまり怒らなさそうなイメージです。

 それは印象ですよね。ぼく、もともとは怒りやすかったと思うんですよ。自分の怒りっぽさに悩んでいたのがちょうど10年くらい前で、それでスマナサーラさんの本に出会ったんです。だからvoicyでも話ができていると思うんですよね。「こんなコロナの時代だから、そりゃみんなイライラするよね。ぼくも10年前だったらもっとイライラ、ピリピリしていたんじゃないかな。でもピリピリしない今のほうがずいぶん楽ですよ」って。

 最初から野球がうまい人はアドバイスするのが下手だと言うじゃないですか。長嶋茂雄さんに「バッティングの秘訣は何ですか?」と聞いたら「ボールがスッと来たら、バットをカーンって振ればいい」と答えたという有名なエピソードがありますよね。でも下手だったけれども一生懸命努力してある程度うまくなった人だったら、相手の悩みがわかると思うんですよ。「たぶんこういうとこ悩んでんだろうな」って。だからアドバイスできる。

 その感覚に近いと思いますね。感情やエモーショナルなことに引っ張られるタイプだったからこそ、いま話せるのかなと思います。ぼくの怒りは表には出ていなかったかもしれません。パッと見は怒っていないように見えていたかもしれない。でも内包していたと思うんですよね。『怒らないこと2』で怒りの種類をジャンル分けしているじゃないですか。あれを読んであらためて思いましたね。わかりやすく外に出る怒りではないけれども、内包するタイプのほうの怒り、それがわりと強かったんだろうなって思います。

歩く瞑想は効果抜群

 ―石井さんはどのような感じで瞑想に取り組まれているのでしょうか?

 がっつり瞑想の時間を取ることはないです。本当は集中してきちんとやって、高めていくのがいいと思うんですけど、ぼくの場合は自然な形で日常生活の中に入っている感じですかね。中でも歩く瞑想には助けられています。歩く瞑想は日常的にできますしね。

 5年前くらいですかね、自分でもびっくりするくらい腹が立つことがあったんですよ。スマナサーラさんの本を読んで、昔よりもだいぶ怒りのエネルギーを抑えられるようになり、穏やかになっていた時期だったからこそ、怒りを強く感じたのかもしれないんですけど、明らかに人から悪意を向けられて腹が立ったんです。仏説に「第二、第三の矢を受けない」というエピソード(*2)がありますけど、第二、第三の矢がどんどん来ちゃうんですよ、自分の中に。思い出してまた怒りが湧いてくるんです。「なんだよ、あいつ!」って。

 せっかく怒りの火が収まりつつあるのに、また自分でガソリンを入れて燃やしちゃっているんですよね。今でも覚えています。品川駅のあたりを歩いていたときに、また「なんだ、あいつ!」と怒りが大きくなって、「これはいかん」と思って、いつもより遠回りして歩く瞑想をしながら帰ったんですよ。

 年末でした。けっこうなスピードで歩いていたので、「右足を上げます、上げます、下ろします」と言う余裕はなくて、「右足前、左足前、右足前、左足前、右足前、左足前」と素早く実況中継していたんです。そしたら体が温まるとともに、面白くなってきました(笑)。「右足が出て、左足が出て、歩いてる俺」と思って。右足が前に出て、左足が前に出て、体全体が前に進むということに笑ってしまったのと同時に、すごいなと思ったんです。「あ、歩けてる、俺。歩けてるだけありがたいな」と。

 でも明るい気持ちになったんですよ。そのとき怒りの炎は明らかに収まっていました。

 あれは自分としては大きな体験でした。それからも余計なことを考えちゃうなっていうときは歩く瞑想をしています。あと、自転車が趣味なので「右足回す、左足回す、右足回す、左足回す」(*3)とペダリングの実況中継をすることもあります。そうするといろいろなことがクリアになって余計なことがすっと抜けて妄想を止めることができるので助かっていますね。

(2020年8月3日 東京)

 

*1 「声と個性の魅力でコンテンツを彩り、新しい文化を創造する」ことを目指し、2016年に始まった日本発の音声メディア。スマートフォンひとつで簡単に収録できるのが特徴。基本的にパーソナリティーは応募者の中から審査制で選ばれている。
*2 聖者も凡夫も第一の矢を受けるのは変わらない。悟った聖者は第二の矢を受けないが、凡夫は反応し「怒り」など感情による第二の矢を受けるという話。
*3 「ペダルを踏む」「ペダルをこぐ」という表現があるが、自転車好きの人は「ペダルを回す」という表現することが多い。

この記事は、『サンガジャパンVol.36』(2020年)の一部を抜粋・再構成したものです。

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