構成=川松佳緒里
すべての苦悩は4つのステップ(内観)で解消される
佐藤 もともと、『心を磨く11のレッスン』の出版のきっかけは、河合さんが、弊社前代表の島影透と、渋谷の瞑想カフェ「気づき」で出会ったことでしたね。
『心を磨く11のレッスン』の内容ですが、冒頭で言われているのが「エゴセルフ」の問題で、自分との向き合い方が重要だということです。サンガでは仏教書を多く扱いますが、仏教でも「自我への執着が苦しみを生む」ということは繰り返し言われますし、重要なテーマです。
また、近年、自分を成長させるためのメタスキルとして、「マインドフルネス」や「EQ(EMOTIONAL INTELLIGENCE)」などがありますが、それらに共通するのは、「自我や自分の感情に振り回されることなく、自分自身とどのように向き合っていくのか」という点だと感じます。
そのような時代の流れの中で、ナミさんと河合さんの前作の第一印象も、「自我という問題への向き合い方がしっかりしている」というものでした。今回の『心を磨く11のレッスン』でも、エゴセルフへの向き合い方をまず大切にしていますね。
ナミ まず、第1作で私たちは「どんな苦悩も解消することができるのが『4つのステップ』です」と言っています。その4つのステップというのは頭で考えるステップではなくて、内観方法なんですね。つまり瞑想みたいな形で自分の内面に向き合う、自分に問いかけを行う、そして能動的に「いったいどういうふうにこの苦悩ができていて、いったい何が原因なのか」を4つのステップで知っていきます。
その上で、自分の心の状態は2つしかないということを学びます。1つは「美しい心の状態」。もう1つは「苦悩の心の状態」です。自分はどちらの心の状態で生きていきたいですか? この問いかけへの答えが、まず自分が最初に決めなくてはいけないことです。苦悩にまみれてネガティブな感情を覚えながら生きていきたいのか。そのときの特徴は頭の中にさまざまな思考があるものなんだよ、そのときにはネガティブな感情が生まれるものなんだよ。そしてそれが原因で目の前の視界が遮られたような、クリアじゃない心の持ち方になって、ごちゃごちゃしてしまっている。これが苦悩の状態だよ、と示しています。
そして、コンシャスネス・意識の学びからすると、「その苦悩の原因は自分の心の中にもっている理想像だよ」とお伝えしています。理想像、つまり自分がどんな人になりたいと考えているか。よく出てくるのが「私はお父さん(お母さん)みたいな成功者になりたい」という思いや「マザーテレサやスーパーマンみたいに人を助けられるヒーローになりたい」という願望、あとは「価値がある人になりたい」「愛される人になりたい」「頭のいい人になりたい」といった想い。理想像は、だいたい10本の指に入るぐらいのパターンしか出てきません。いちばん多いのが成功者像で、それぞれの人によって詳細は違いますが、そうした理想像があるからこそ、現実とのギャップがあると苦悩するのです。そして『心を磨く11のレッスン』では、理想像はどのように作られて、誰が作っているのか、詳しく書かれています。それがエゴと一般的に呼ばれているもので、この本では「エゴセルフ」としています。「自我」と同じ意味ですが、自我という言葉は何百年も前から言われてきているのでさまざまな解説があって、結局、わからなくなっている感じがあるんですね。だからあえて「エゴセルフ」という新しい単語として提示しています。
エゴセルフは人間であれば、頭の中に誰にでもある、自分のアイデンティティーです。エゴセルフがあるため、人と人との間に「比較」が生じます。エゴセルフがあるために、自分は上なのか下なのか常に判断して、批判して、卑下するわけです。そして、このエゴセルフがあるから理想像を作るのです。「私は、愛される人」「私は、頭がいい人」「私は、価値がある人」「私は、成功者である」などなど。さまざまな理想像はエゴセルフが無意識のあいだに作っているのです。そのことを詳しく今回の本で話しています。エゴセルフについて、そして意識の学び、いろいろな知恵を今回は入れていますが、そのすべてを通してそれがコンシャスネスの学びです。
佐藤 私たちは「自分をしっかり持ちなさい」「自分のアイデンティティーを作り上げなさい」と言われて育ってきた経験もあると思いますが、この点も混乱してしまうところだと思います。「自分をしっかり持つ」ことと「エゴセルフに執着すること」は違うことなのでしょうか?
ナミ 「自分を持ちなさい」と言われても、どうしたらいいかわからないですよね。「え、じゃ誰みたいにならなきゃいけないのかな」と考えがちですが、「誰かみたいになる」ということこそが自分の中に理想像を作っていることになります。たとえば、サッカーをしている方であれば「〇〇選手みたいになりたい」と、憧れのヒーローになりたいと思うわけです。そう思わなくてはいけないんじゃないかと思うぐらいに。
お父さん、お母さんが素晴らしい人であれば「私、お母さんみたいな女性にならなくてはいけない」「お父さんみたいにちゃんと稼いで家族を養う人にならなくてはいけない」と思って頑張る。それって自然なことではあるのですが、やっぱり現実とのあいだにギャップが出たときに自分が苦しくなります。そこに気づけるかどうかですね。
佐藤 気づいて、それを手放したり捨てたりすることも大事になってくると?
ナミ そうですね。「手放す」と言うと「え、それ、絶対に手放さないといけないんですか」「私、手放そうと思ってもどうしてもできないんです」と言われる方がいらっしゃいます。たとえば、それまで「キャリアウーマンみたいなかっこいい、キラキラしている美しい女性になりたい」と思って頑張ってきた女性に、私が「あなた、それで苦労しているでしょう?手放しなさいよ」と言っても「え、私、どうしても手放せないんです」と言う方がいます。そういう方は、「なぜ私は、自分を苦悩の状態にしてまでその理想像にならなければいけないと思うのか」を、自分に聞かなくてはいけません。
「〇〇にならなければいけない」と思うのは、しがみついていること、執着しているということです。「絶対、こんなふうにならなきゃいけない!」って、ギューッとしがみついているから苦しい。ですから、なぜそう思うのかにツッコミを入れていくんです。するとたいていの場合は、過去の心の傷が出てきます。よくあるのが「〇〇にならなければ、お母さんから自分の価値を認めてもらえなかった」とか、小さい頃に邪険に扱われたり、完璧に無視されていたなど。そうした心の傷から「どうしても成功者にならないとお母さんから愛されない」という強迫観念がどこかにあるのです。それを今、大人になった自分が見てあげるんです。
佐藤 執着しているものが手放せたなら、楽になれる瞬間が訪れる、ということですよね。それを実行するためには、それまで1つの見方で凝り固まっていた視点を転換するようなこと、違う見方で自分を捉え直すようなことが必要になってくるのかなと思うのですが。そのやり方を本の中で提示されているのでしょうか。
ナミ そうですね、それが4つのステップのうち、3番目の「自分の本当の理想像を知る」という段階です。その段階で「本当に私はこの理想像にしがみつく必要があるのか」と、自分にツッコミを入れなくてはいけないのです。「なぜ、そう思うのか」「なぜ、そうしなければならないと思ってしまうのか」「いったいそれはどこから作られたんだろう」というようにして、自分で見ていく必要があるのです。
佐藤 それがプロセスの第3段階なんですね。4つのステップを最初から言うと、どうなりますか?
ナミ 1番目は、感情がブレているとか、イライラしたり、なんとなくモヤモヤしている、キレてしまった、悲しみがある……そういうすべてのネガティブな感情が出てきた瞬間に、自分で気づくことです。自分は苦悩の状態になっていると気づくだけ。これが1番目のステップです。
苦悩の状態に陥っているときの特徴として、頭の中でさまざまな思考がグルグルと回っているものなんですね。2番目は、そのひとつひとつの思考を見ていきます。これは内観を通して、目をつぶって、ひとつひとつ、15個くらい、挙げていきます。15個出たら、出たものをどうこうせずに、そこで終わり。もっともっと出る人は出し切って終わりです。それが終わったら3番目に行きます。
3番目のステップでは2つ、することがあります。1つは、15個挙がった思考は、どれぐらいの割合が自分中心の立ち位置からきているものなのかを考えること。苦悩の状態になっているときは自分が真ん中にきて周りを見て「あなたがああしてくれたらよかったじゃないの」「あなたが私にこうしてくれればよかったのに」とか、「私のことをもっと見てよ」と、「私、私、私」で自分が真ん中にいます。挙がった15個なりの思考のうち、それが何パーセントくらいありましたか、と。だいたい90~100%の割合で自分中心の立ち位置にいてそうなっていると気づきます。
もう1つのすることは「理想像を見つける」ことです。自分はいったいどういう人になりたいと思って頑張ってきているのか。それを自分で知ることです。1つのときもあれば、いろいろな理想像が出てくることもあります。それをひとつひとつ自分で見ていくのです。で、たとえば「また私、かわいい人になりたいと思ってたな」とか「おれ、みんなから成功者に見られたいと思っていたな」などとわかったら、そのことにツッコミを入れて、いかにそれが滑稽なことか理解する。するとそこでスッと美しい心の状態に戻ることができますよ、ということですね。
そして最後の4番目のステップは、「美しい心の状態に戻りました。じゃあ、どんな行動をすればいいのか」と自分で考えます。苦悩の心の状態だと衝動的な行動しかできなくなっているし、行動の幅もせばまっていて小さいことしかできなくなっているんですね。衝動的な行動とは、たとえば何か言われてパッと言い返してしまったり、ネガティブなメールを返してしまったり。しかも、恐れや不安の心もあって一歩が踏み出せない状態です。ですからそれをやめて、美しい心の状態で自分は何をするべきなのか、あるいはしなくていいのかを、決めていきます。
佐藤 なるほど。自分が無意識に作っていた理想像に縛られていた状態から、それを手放したときに、また美しい心の状態で判断ができるようになってくる。その上での行動が本当の意味での成功している人たち、コンシャスリーダーのとるべき態度だということですね。
(第3回に続く)
(2020年9月5日 東京と仙台とハワイをZoomでつないで開催)