構成=川松佳緒里
コンシャスリーダー(素晴らしい成功者)の行動とは?
佐藤 河合さんは、実際に成功者の方ともたくさんお会いしていると思いますが、成功者がとっている素晴らしい行動とはどういうものなのでしょう?
河合 一言であらわすと、「余裕がある」ということでしょうか。クルマのハンドルには遊びの部分がありますよね。ちょっとでも動かしたらそちらにグッと動いてしまうようでは危ない。少し遊びの部分があるハンドルを回すと、スムーズに曲がれる。そのように、本当に尊敬できるな、素敵だな、多くの方々から必要とされていて活躍され続けているなと思う方々は、ゆとりがあるような気がします。
そういう方々はこだわりがないわけではないでしょうし、こだわらなくていいと言っているわけではないのですが、あれもこれも、それもこれも、すべてを自分のものにしようというような執着がなくなってくるんじゃないのかなと思います。「こだわっているこの部分に関してはこうだけど、それ以外は任せるよ」「ここの部分さえ押さえておいてもらえれば、あとは大丈夫だから」と。こだわりをなくしましょうというわけではなくて「何のためにこだわっていくのか」が自分の心のビジョンから定まっている。たとえば自分だけがハッピーになるのではなくて、自分はもちろん、周りの人たちや少しでも多くの人たちの豊かさや幸せや笑顔につながっていくものだから頑張るのと、自分はいい人だと思われようと思って頑張るのでは、仮に行動が同じだったとしてもそこから伝わってくるものや、周りからの応援・協力に、すごく大きな違いが生まれてくるのではないかと思います。「とりあえずもらっておこう!」ではなくて、「本当に欲しいものは欲しい!あとは、取っておかなくても大丈夫」。そのような姿が、いわゆる“余裕”という感覚につながってくるんだと思うんです。
はじめって恐らく、たくさん欲しがり過ぎてしまうんですよ。食べ放題で取り過ぎたり、ドリンクバーで飲み過ぎて食事の前におなかがいっぱいになってしまうようなものです。お恥ずかしいエピソードですが(笑)、僕は大学生になって独り暮らしを始めたとき、ドリンクバーが新鮮で、ジュースを飲み過ぎてごはんが運ばれてくる前におなかがタプタプでもうそんなに食べられない、みたいなことがよくありました。食べ放題で高いものを食べないと損!みたいな感じとか。
ナミ 私も食べ放題で経験ありますよ(笑)。
河合 つまり、なんでもかんでも欲しがったら本当に欲しいものに気づけなかったり、本当に欲しいものが手に入るときに行動できるゆとりや時間、お金がなかったりするのかなと思うんです。そこで、人からの評価や人の目にこだわり過ぎるのではなくて「これだ」というシンプルなものを見つけられると、そこに対してパワフルにこだわっていけると思いますし、比較から生まれる理想像を手放していけるのではないかと思います。
はじめはいっぱい取ってもいいと思うんですよ。で、飲み過ぎたり食べ過ぎておなかいっぱいになり過ぎて、おなかが痛くなったりする経験を通して自分自身の食べる量を知る。自分自身の成功の仕方でも、組織を作って大きくしていく中で多くの人を笑顔にしていく方もいらっしゃれば、組織を作らず自身の発信力を高めていくことで多くの人を笑顔にしていく方もいらっしゃる。あるいは起業しないで会社の一員として、その会社の活動を通して貢献し、活躍している方もいらっしゃれば、ビジネスを持たずに家庭で身近な家族を笑顔にし、家族が元気いっぱい、ステキな状態で社会のさまざまなところに出て活躍していかれるとか、それぞれのスタイルがあっていい。「こうじゃなきゃいけない」ということはぜんぜんないのです。大きい会社がすごくて小さい会社がすごくないとか、起業している人が偉くて起業していない人は挑戦してないとか、本当にありません。自分のスタイルに気づけて、数少ないこだわっているものには非常に敏感になりながらも、それ以外のことにはゆとりがある、余裕がある。そんな方になっていかれるんじゃないのかなと感じていますね。
佐藤 こだわらなくていいということではなくて、「何かを求めたい」と欲の気持ちが自分の中にあることを気づきつつ、「ただそこに突き進んでも、求めているものにはたどり着けないんだ」ということを、いろいろな経験と学びによって実感していくプロセスは大切ですよね。
たとえば理想像にしても「『自分』を持たなくていいんだよ」という話ではなくて、「自分は今、何にしがみついていて、本当は何をしたいのか」をちゃんと見ていく。現実の中の自分の感情の動きを把握した上で、ちゃんと落とし込んでいく。企業であれば従業員たちの思っていることは何か、他人に対する理解もすごく大事です。また、ドリンクバーの話も自分の実体験としてもわかりやすかったですね(笑)。自分の欲がどのように動くのかを知らずに欲だけで突き進めば、幸せの感覚から遠のいていきます。そのことに気づくこともコンシャスネスの学びなのだと思います。
ナミ 『心を磨く11のレッスン』のはじめのほうに、「学びというのは良い・悪いとか、平等・不平等ではない」と書きました。本当にそうですよね。「心の授業をやっているからあなたはこうであるべき」「心を鍛えている人だからチョコレートケーキを食べちゃダメ」とか言われたら、それこそ苦悩になります(笑)。
「私はベジタリアンだからこんなの食べちゃダメ」とか、「マクロビを推薦している人はこれは食べちゃダメ」とか、そう考えてしまうとすれば、それこそが理想像を作っていることなので、自分自身が苦しむことになります。そういうことにもひとつひとつ気づいていくその過程がコンシャスネスの学びなんですよ。意識的に、自分にとって必要なものかどうか、身体に良いものかどうか、ちゃんと身体と心と会話しながら、口にするものを自分で決めていけばいいのです。
河合 まさに今、僕たちがお話ししたことを、僕が知る限り一番経営に活かしていらっしゃるのが、創業200年を越える老舗企業、「船橋屋」というくず餅を販売されている渡辺雅司社長だと思います。渡辺社長のご著書『Being Management「リーダー」をやめると、うまくいく』(PHP研究所)にも、それが「これでいいのだ!」という一言であらわされています。我々はどちらかというと個人の方がどのように実践していったらいいのかというような話をしていますが、経営にどう活かしていくのかに関しては、渡辺氏の著書はお勧めです。経営者としてこうあるべきだとか、社長だからこう見られなくてはいけないという感じに縛られてしまうと、なかなか自己表現にしても、社員やお客様と人と人として接していくことにしても難しくなってしまう。そんなことよりも、こだわっていくものはあるけれども、しがみつきすぎないで、未来に対しての不安でもなければ過去に対しての後悔でもなく、今という時間を大切にして今を生きていくことが大切。そういう実感を社員ひとりひとりにもっていくことができれば、自動的に社員の方々が動いて活動していくんだよ、そんな話もなさっています。
インドの師の教えと洞察の深い事例が2作目のポイント
ナミ 『心を磨く11のレッスン』は、心強いことにクリシャナラジ(Krishnaraj)先生が執筆に携わってくれています。インド人で20年以上メディテーション&コンシャスネスのエキスパートとしてずっと人のために働いてきた方で、脳科学&心理学の研究をされている方です。クリシャナラジ先生と一緒に、コンシャスネスとは何かとか、自分の心というのはこのようにして段階を経て磨いていくものだとか、深いコンシャスネスの知恵を今回一緒に執筆させていただきました。だから今回は、最初はぜんぶ英語で執筆して、それを日本語に直していったのです。
佐藤 そう、今回は3人の共著ですね。クリシャナラジ先生がおっしゃっている原理的な話を、日本人にわかりやすいように、たくさん事例を入れながら、読みやすく書き換えてくださっています。そして、それを河合さんがどんどん紹介していくという形で、チームで作っているような書籍です。制作もダイナミックで楽しいです。
ナミ しかも、編集する前に「これはサンガさんの編集者さんも、私たちのセミナーに来て体感をしていただかないと無理です」と言って、佐藤さんにも5日間、合宿に参加していただきました。
佐藤 本当に合宿に参加させていただいてよかったですし、ありがたい経験でした。「こういうことを言っているんだ」と体感でわかってくるところがあって。言葉でわかろうとすると、どうしても今まで持っている知識にあてはめて理解しようとするので、ある程度のところで止まってしまうんですよね。「あ、ここで言ってるこれは、あれに近いな」とか、僕もやりがちですが、まっさらな気持ちで向き合ったほうがコンシャスネスの学びは学べます。『心を磨く11のレッスン』も既成概念みたいなものを一度捨てて読み進めるのが、学びを深める上では大事だと思います。
河合 今回の『心を磨く11のレッスン』では、前作であまり扱わなかったポイントをたくさん紹介しています。たとえば理想像ってどのように作られていくのか、自分の厳しい比較から生まれてくるものってどんなものがあるか、目標・ビジョンの設定も、どのように作っていくと苦悩になりがちなのか。また、そもそも自分っていったい何なのか、目標設定をする以前の状態から見直したほうがいいかもしれないとか、人のためと言いながらも恩着せがましいリーダーにならないために気をつけなくてはいけないのではないかとか、パートナーと心をつなげていくためにはどうしたらいいのかなど、伝えたい思いがあふれて300ページを超える作品になりました。
さらに、先ほどナミさんもおっしゃられたパートナーシップのテーマについて、とくに後半は生々しい事例を挙げながら、深い洞察をしています。たとえば、「複数の異性と関係を持ちたい」という心の葛藤にどう向き合うか。こんなことをダイレクトにテーマにすることも少ないと思いますが、それを真剣にコンシャスネスの観点から考えたり、また「失うことの痛み」にどう向き合うかなど、皆さんが共感できるテーマをしっかり扱っています。
コンシャスネスの学びで、日々を美しい心で送れるように
河合 最後になりましたが、第2弾の本も、ぜひ手に取って読んでいただければと思います。本に限らず、私たちは皆さんの日々の生活の中でちょっとでもモヤモヤとすることが減ったらいいなと思っています。
僕もナミさんも、インドの先生も、苦悩にならないようになるわけじゃないんですよね。日々、挑戦していれば挑戦しているほど、うまくいかないことも起こるでしょうし。何もしなかったらプラスマイナスも含めて起こらない。そう考えると、日々、僕たちの生活というのは、すごくハッピーな時間だけにはたぶんならないと思うんですよね。でも心穏やかに過ごせて、ふとしたマイナスな感情が出たとしても自分自身でクリアにしていけるような技術を身につけられたら、自分が良い状態で過ごしていける。そして皆さんの周りの方々がちょっと今大変そうだなとか、何かサポートしてあげられるかもしれないなというときに、大切な方々の力にもなることができる。そういったものを伝えていけるライフワークといいますか、多くの方々に知ってもらいたい思いでやっていて、その1つが本という表現です。
今回は、新作の対談をということだったので、せっかくだったらシェアできる公開対談にしたほうが、より多くの人に関心をもっていただけるかな、今までモヤモヤしていたことをクリアにしていけるヒントを感じていただける方もいるかなと思いました。直前の告知にもかかわらず参加してくださった皆さん、ありがとうございました。まだまだコロナの心配や不安もぬぐえない状況であると思いますし、思いきって人とコミュニケーションをとったり、どこかに旅行に行くことも難しいかもしれませんが、でもその環境が皆さんを苦悩にしているのではなくて、環境に対しての自分自身の捉え方、その変化だけでも変えていけることはたくさんあると思います。そういったことを、本やオンラインセッションなどで発信できればいいのかな、と。たまたま先に学んだのが私たちというだけなので、共に学び続けていきながら、皆さんとコミュニケーションをとっていければと思っています。
佐藤 執筆するほうを優先してしまって、制作中にこういう場をもつことはなかったのですが、ナミさんと河合さんとは「編集中から読者の皆さんとコミュニケーションできる場をもてたらいいね」と話し合っていました。このような場の力はオンラインであっても感じますので、ぜひ皆さんのエネルギーも詰めて刊行したいと思います。
ナミ 本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。
(2020年9月5日 東京と仙台とハワイをZoomでつないで開催)